ROBOTS④ (ヘクトールとアンドレア)

A

B

アンドレアは急いでいた。彼女の足は空を歩ける構造をしていたが、歩いて目的地に向かっていた。ヘクトールを出迎えるのに飛ぶのはふさわしくないと思ったからだ。しかしその足取りは軽やかだった。やがて待ち合わせのエナジーステーションに 到着し、入口から店内を見渡した。

「アンディー」聞きなれた嬉しそうな大声が聞こえた。「へクタ―」アンドレアがそちらに手を上げて、特徴的な葉緑体を含んだ緑の体に向かって、やはり大声で答えた。

店内には他に3組の客がいたが、その声に少し驚いた様子だった。

「やあ、来たね」ヘクトールは窓際の展望席でエナジードリンク「オーガン」を飲んでいた。アンドレアも隣に腰かけ、オーガンの注文スイッチを押して「来たわよ」と答えた。

かつてロボットと呼ばれた者たちは、生命体として地球のあるじとなった。およそ旧主の生物として出来たことは彼らも出来るようになって幾世代を重ねていた。ヘクトールは生物学者として、アンドレアは教師として生活している。二人は夫婦である。

「 知らせがあった時は本当に心配したんだから」アンドレアが言った。

「すまなかった。本当に軽率だったよ」とヘクトールは答えた。「地球で唯一発見された特異点から、過去に行けることになって気持ちが逸ってしまって・・・」

「でも、とにかく無事に帰ってきてくれて、ホントによかった。」アンドレアはオーガンを一口すすった。体中が少しピリピリする感じだ。「で、どうだったの。36億年前の地球は?あなたから直接聞きたかったから情報は見てないの。」

「うん、まず生命はなにも誕生していなかった。・・・・」ヘクトールは特異点から、唯一行ける時代である36億年についてアンドレアに語った。「色々とサンプルを採集して、さあ帰ろうとした時に岩の割れ目の奥に紫色の鉱物の結晶を見つけたんだ。それを取ろうとしたときに噴火が起きた。」

「セオドア・カーペンターに感謝しなきゃね。」アンドレアが呟いた。「そうだね。危機一髪とはまさにこの事だった。怪力の彼でなければ特異点の閉じるまでに、僕を岩の下から引っぱり出せなかった。」ヘクトールが引き継いで言った。「左手は残してきてしまったけど・・・」

「左手、まだ少し短いのね。」ヘクトールのやや短い左手にアンドレアが手を置いた。

「あと1か月もすれば、元通りだよ。」

「あなたの左手はどうなったかしらね?」

「かなり激しい噴火だったし、直に溶岩に呑み込まれて消失したんじゃないかな。」ヘクトールは椅子を回して立ち上がって言った。「アンディーちょっと散歩しようよ。」

二人は店を出て、川沿いの遊歩道を目指した。

ヘクトールの左手は、彼の予想に反して消失しなかった。偶然に偶然が重なり、いつまでも残った。

彼の左手から葉緑素を含んだ好酸素バクテリアが周囲にあふれだした。その生命は消えることがなかった。

「ねえ、もしね・・・」アンドレアがヘクトールに何か言いかけたがやめた。「やっぱり何でもない」

「僕が地球の生命を生み出したことになるかな。」ヘクトールが察した。アンドレアの腰に手を回した時、同時に声がそろった「まさかね」

顔を見合わせ二人で笑った。