子供ドラゴン

2017年3月にドラードギャラリーで開催されるいきものがたり展用に制作した販売用の作品。ドラゴンは長方形二枚で制作。作成後着色 「birthday」「dreaming」「hope」「walk」の4作品。    

王女フリーグラは胸に4個の卵を抱き、ドラゴンの王国から出て、人の世界のはるかな上空を飛んでいた。彼女の後ろには乳母のジセルが監視役として飛んでいる。卵は全てフリーグラが生んだものだ。我が子を胸に抱いていても彼女の心は沈んでいた。

王家の卵は出産後すぐに、人の世界の厳しい環境に投げ捨てられる。卵は煮えたぎるマグマにふれても、極寒の荒野、灼熱の砂漠に落ちても死ぬことなく、その精気を吸って孵化する。マグマの精を吸えば獰猛な炎龍、寒さの精を吸えば冷酷な氷龍となる。より強き子孫を残すため生まれる場所は過酷であるほど良い。 彼女の父にして龍王のザルガスは炎龍である。子孫を残すための雌龍フリーグラは王宮で生まれ育てられた。 彼女の役目は5個産んだ卵のうちの4個を選ばれた環境の上で投げ落とすことである。落とす前に名前を卵に向かってささやかねばならない。名前が染みこんだ卵から孵化した幼龍は5年ののち、母の呼び声を受けドラゴンの王国に帰還する。

フリーグラは噴火が絶えず煮えたぎった火山の上に来た。 「姫、火口に投げ落とすのですよ」ジセルが隣に並んだ。 「フィネス」フリーグラは第一の卵を火口に投げた。ああこの子は荒々しい子になってしまう。涙がこぼれそうになる。 「アビス」大洋の亀裂の真上で二つ目 「ブリザス」吸える空気もない山頂が三つ目 最後の卵は最も気の滅入る場所に行かねばならなかった。五百年 戦の絶えぬ場所。血と憎しみ、恨みの染みこんだ荒野である。 フリーグラは最後の子だけは心優しい龍になってほしかった。 彼女は決意した。大変危険な決意だ。

羽ばたきながら、ジセルに「とても疲れたわ」と呟く。 「姫、大変でしょうがもう一か所だけでございます。終わりましたらわたくしの背でお休みください。」ジセルは年を経て巨大になった雌龍だ。 眼下に一つの国ぐらいの広さの丕きな森が見えてきた。 フリーグラは高鳴る鼓動を感じながら森の上空に入っていった。 そして行動に出た。めまいを起こしたかのように揺らぎ、錐揉みをしたのだ。 フリーグラは最後の卵を落とした。 「姫!」ジセルが叫んで彼女の下に入った。 「申し訳ございません。ああわたくしの背に乗って頂けばよかった。」 「ジセル大変。私、卵を落としてしまった。」一度地に着いた卵は他の場所では育たない。 「仕方ありません。王はお叱りになるでしょうが、責めはないかと存じます。」 「そうかしら。王は厳しい方ですよ」 「厳しい王ですが、きっと大丈夫ですよ。名前を付けても帰ってこなかった子もおります。以前グィナスと名付けられ、岩地に落とした卵も有りましたでしょ。さあ帰りましょ姫。私からも王には説明いたします。」 フリーグラは「ありがとうジセル」と言ってその背で眠ったふりをした。ジセルには申し訳ないが、これでホッとした。もうわが身はどうなってもよかった。

卵を落とした森は心優しき妖精の女王「マブ」の森。この子はドラゴンの王国も知らず、名を付けなかったので呼びかけが聴こえることもない。心優しいドラゴンになることだろう。 「お前だけは心優しく育っておくれ」フリーグラは思った。

10年の歳月が過ぎた。 豊穣の森の中で、一匹のドラゴンが誕生した。