大地の亀裂の底で

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隠れ家森のすぐ横の岩場に亀裂が走っている。ウバメガシの団栗ほどの隙間が長く長く続いている。さまざまな枯れ葉や動物の死骸、または行き倒れた妖精たちの屍などが風に吹き寄せられ、粉々になって亀裂に落ちていった。亀裂は深く、森一番の高さのカラマツがすっぽり入るほどもある。 落ちていった様々なものは亀裂の底にたまり、三体の命を生じた。

ここは不思議が支配する森の国。彼らは上の世界があることも知らず、自分たち以外の者と会ったこともないが、妖精の話す言葉は知っていた。多分彼らの命の元の中に、無念のうちに死んだコウモリの妖精の体の一部があったせいだろう。

彼らは、亀裂の底で時折落ちてくるものや亀裂の中の苔や小さい虫などを食べていた。非常に食料が少ないので、いさかいが絶えず、三体のみの眷属であるにもかかわらずお互いに反目し合っていた。 その日も彼らは落ちてきたハシバミの実を巡って争っていた。 取り合っていた実が弾みでどこかに飛んでいってしまったその時、彼らの真ん中に何かが落ちてきた。 「いててて、」それがしゃべった。見たことのない綺麗な緑色をしている。落ちてきたものがしゃべるのは初めてだ。 「うわー 亀裂の底だ。こんな深いんだ。」彼らが驚愕して見つめる中、それはさらに続けた。「僕、雀蛾の子虫妖精のヨルグ。亀裂の上に葉っぱがあって、亀裂に気づかず落ちちゃった。君たちは?」 彼らは互いに見合わせ「俺たち、ここに住んでる。ヨルグってなんだ?」端っこのが答えた。 「ヨルグは僕の名前だよ。君たちの名前は?」 「名前ってなんだ? お前はなんだ? どこにいた?」真ん中のが聞いた。彼らは混乱していた。ヨルグは根気よく様々説明してやった。

「それでね、僕は上の世界に帰らなきゃいけないんだけど、手伝ってくれる?」 今まで感じたことのないさまざまな感情が彼らに訪れた。いさかいしかなかった世界に連帯感が生まれた。 この美しい生き物のために力になってやりたいと思った。 目的が生まれ、上の世界に興味を持った。体の中に力が湧き、ワクワクし、愉しい感情を知った。 「亀裂のこっちのほうは上り坂になっている。行けば上が近くなる。登りやすいかもしれない。お前を上に帰してやる。」端っこのが言った。 「わあ、ありがとう。」ヨルグは喜んだ。 「ヨルグ」後ろのが呼びかけた。「俺たち、名前欲しい。」 「そうだね。それが良い。」ヨルグは暫く考えたのち、向いているほうから順番に指さし「ヤン」「ユン」「ヨン」と言った。[昔話の親切な3兄弟の名前だよ] 名前が出来たことで他者と自分の区別が明確になった。霧が晴れるように心が明るくなっていった。 そして彼らは出発した。ヨルグは歩くのが皆より遅いので、最初はヤン、次にユン、そしてヨンという具合に背負って亀裂の坂を歩いて行った。初めての冒険に初めて胸をときめかせながら・・・・