ミノタウロス…ディビッド=マッケン

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森の中を、ディビッド=マッケンは人里を目指し、歩いていた。もとより彼は、人ではない。愛情を持って17歳まで育ててくれた人間の養父が付けた名だ。ディビッドは幼く記憶にはないが、父は異世界から彼を連れて逃げ、この地に住み着いたのだ。森の奥の粗末な小屋での生活だったが、父アーサーは出来る限りの教育を彼に施してくれた。しかし彼は高齢のため、昨年息を引き取った。一人になって話し相手がいないということがこれほどつらいとは思っていなかった。そしてついに決心した。人里に行こう。人里に行くのは初めてではなかったが、以前は遠くより見ただけだった。ディビッドは父以外の人と話をしたことはなかったが、会話には自信があった。父が死んで、会話に飢えていた。友達が欲しかった。村に住み、人とともに生活出来れば、と思っていた。やがて、村が見えてきた。高揚する気持ちを抑えつつ、ディビッドは村の入り口に入っていった。  

・・・・・・・・ディビッドは混乱していた。村に入った彼の前に、こちらに背を向け洗濯をしている婦人が見えた。彼は、にこやかに「こんにちは、初めまして、とてもいい天気ですね」と声をかけたのだ。「ええ、本当にいい・・・」夫人は笑顔で振り返ったが、言葉は途中で途切れた。そしてその言葉は「ばけもの」というつぶやきに変わった。わなわなと口を震わせ、次いで金切り声をあげ、なんと逃げ出したのだ。ディビッドはあまりの事に理解が及ばなかった。そして何か言おうとしたが、集まり始めた村人の声にかき消されてしまった。集まった村人の皆が怒号を上げている。やがて石がぶつけられ、彼は逃げた。鍬や鋤で追い回され、必死で逃げた。途中でフード付きの外套を盗み、蹄と尾を隠し、フードを目深にかぶったが角が突き出てしまった。なおも追われ、やっと森の奥に逃げ帰ることができた。気が付くと、左の角が折れていた。ディビッドは声もなく啼いた。

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